「どうしたの、天気がいいのに長靴なんかはいて」

朝、家を出る前にお母さんが怪訝そうに言った。

「先生がはいて来いって言ったんだ。」

僕、岡の上小学校6年A組の毛利隆史は手を振って

「じゃ、行ってきまーす。」

と学校へ急いだ。

 

「おっ、みんな用意はいいね」

プロット先生がみんなの服装を見て言った。

「でも先生、どうして天気がいいのに長靴なの?はずかしかったわよ。」

大内清子が口をとがらせて言った。

「まぁキヨコ。そう言うな。今日はみんなが行きたいって言ってた化石を掘りに行くんだから。」

「えー」

「どこへ?」

「やったー」

プロット先生の言葉と同時にみんなが叫んだ。

 

「ところでプロット先生。僕たちはどこで化石を掘るんですか?」

おや、今日の僕の口はすごく真面目だ。

「まぁそれは行ってからのお楽しみ。じゃ、みんな弁当だけを残してカバンの中身を全部机の中に入れて教室のうしろの出入り口に集まってね。」

先生が言ったとおりに僕たちはお弁当だけを残して全部机の中に入れた。

「あーいけないんだ。先生、隆史はゲームを学校へ持って来ていまーす。」

「え、こ、こら清子。駄目だよ。言うなよ。」

僕はドギマギして先生の方を見た。

「タカシ、学校は何をするところかなぁ?」

プロット先生がウインクをしながら聞いたので僕は少しホッとしながら

「はい、勉強をするところです。」

と頭をかきながら答えた。

「そう、そうだよね。じゃそのゲームを預かっておこうかな。」

先生が大きな手を出したので僕は仕方なく渡した。

ちえ、ちくしょう清子め。

清子をにらみつけたが、彼女はプイッと横を向いて知らん顔だ。

 

「じゃ出かけよう。ドアを出たらそこでみんなが揃うまで待っててね。それじゃ順番にこれを持って一人ずつ出て行ってくれるかな。」

ドアの前に立ったプロット先生は、そう言って一人一人につまようじのような物を手渡した。

「みんなそれをカバンの中に入れておくんだよ。」

「はーい」

何だか判らないけれど、僕たちは返事をして言われたとおりカバンの中へ放り込んだ。


教室の外側ローカで全員が揃ったので

「じゃ先生に付いて来なさい。絶対に離れないでね。」

「はーい」

プロット先生について僕たちはゾロゾロと移動をはじめた。

 

「なーんだ何も無いじゃないか、つまんないの。」

ドアを出た処で、化石を探す所へ行くのかと思っていた僕は、横に居た清高に耳打ちした。

「しっ。」

清高が口に人差し指を立てて

「でもね、おかしいよ。どこの教室にも誰もいないみたいに静かじゃん。」

と言った。

そう言われて見回すとなるほど静かだなぁ。

 

先生がローカのかどを曲がった。

そこから先は赤土の牧場みたいなところだった。

 

「えっ、なんで?」

僕は振り返って見た。でもそこには学校の代わりにキャラバンカーが一台あるだけだった。

なんでだよぉ、誰も先生に聞かないのかよ。

「先生、ここはどこですか?」

僕が大声で聞いた。

「おっタカシか。今、君が歩いているところは1億年ぐらい前の土地だよ。」

先生は振り返らないで答えた。

「ち、違います。ここはどこなんですか?」

僕がもう一度聞いた。こら、みんな何とか言え。

「タカシ、心配しないで歩きなさい。もうすぐだから。」

またプロット先生はうしろを振り向かないで言った。

 

でも回りは赤土だけで何も無いし、所々に30cmぐらいの高さの草がまとまって生えているだけだし。横もうしろもどこを見ても地平線が見える。

空の青さと赤土の色が交わった地平線はすっごくきれいだ。

あっ、き、きれいだなんて考えているどころじゃない。

10分程歩いた所でプロット先生が振り向いた。

「さあみんな止まって。ここだよ。」

「こっ、ここだよったって、なーんも無いじゃん。」

僕は心の中で叫んだ。

パン!

プロット先生が両手を思いっきり叩いた。

「えーわたし達どこにいるの?」

「ここどこー」

「広いなぁ。」

急にみんなが口々に騒ぎ出した。

なーんだみんなは眠りながらついて来ていたのか。

 

「あっ、あれ何だ。ゲッ、カンガルーだよ。」

和也が叫んだので、僕たちは和也の視線をトレースして見た。なるほど10頭程のカンガルー達が僕たちを眺めている。

「かっわいいー」

「先生、近づいてもいいですか?」

誰かが言った。

「駄目駄目。ナチュラルの動物は危ないから近寄っちゃ駄目だよ。それよりかみんなのカバンの中からハンマーを出してくれるかい。」

先生も普通に戻って言ったけど僕達は

ポカーン

としていた。

「ハンマーなんか持って来てません。だって先生、そんな事言わなかったじゃないか。」


僕の口が勝手に言った。

「わかった、わかった。でも試しにカバンを開けてごらん。きっと入っていると思うよ。」


プロット先生が言うので僕は自分のカバンの中へ手を突っ込んだ。あれっ、弁当以外に何かが入っている。これか!ホッシキングハンマーだ。

でもいつ入れたのかなぁ。

 

 

「ハーイ、プロット先生いらっしゃい。」

どこから出てきたのか、外人のきれいな女の人が僕たちの後ろから声をかけた。

背が高くってサファリルックの制服みたいな格好をして、まん丸のトンボサングラスをかけている。

「おーキャシー。遅くなってごめんごめん、この子達が僕のクラスの生徒たちだよ。」


プロット先生がキャシーに言い、僕たちに向かって

「この人はキャシー。ここで恐竜を掘っている古生物学者なんだ。さぁみんなご挨拶。」


「キャシー先生、こんにちは。」

僕たちは口を揃えて言った。

「はい、こんにちは。みんな元気がいいわね。じゃ、今日はわたしがみんなを案内するわね。」

キャシー先生はそう言って僕たちを大きな穴の方へと案内した。

その穴の深さは1mほどで、穴と言う程では無かったけれど広さがすごい。中でテニスが出来る。いや、野球が出来るくらい広かった。

「さぁ入って。ここは5年くらい前にバーロサウルスが見つかった所なのよ。体長26mのが見つかって、その次に21mぐらいのが見つかったのよ。今日はみんなで3番目の恐竜を探しましょうね。」

キャシー先生が言った。

「やったー、みつけるぞ。」

また、僕の口だ。勝手な奴なんだ。

「そう、タカシクン。頑張って見つけてね。」

「はーい」

えっ?でも?どうしてキャシー先生は僕の名前を知っているのかな。

 

「みんな、ここに集まって頂戴。さぁ、これを見て。どう、これが骨の化石よ。」

キャシー先生の周りに集まった僕たちに先生は足元に半分ぐらい出ている骨を指さしながら言った。

「どう、化石ってのはこんな色。わかった?ちょっと触ってみてもいいわよ。」

先生が言ったので僕が一番に腰をかがめて触った。

「へーざらざらじゃん。」

「わたしも、わたしも」

「隆史は邪魔よ。早くどきなさい。」

清子はうるさいなぁ。

「でもね、この骨はカバーをしたりして保存してないから太陽光線や雨で痛んでいるのでねぇ。もう少しツルツルした感じなのよ。じゃみんな。それぞれ好きな所へ行って化石を探して頂戴。もし何か見つけたらプロット先生かわたしを呼んでね。じゃ、宝さがし始めー。」

キャシー先生が言って手を叩いた。

「よーし、僕はもっと大きなティタノサウルスだ。」

「僕は恐竜のたまご。」

僕たちはそれぞれが言いながら広い穴の中でちらばった。

勿論僕もみんなが居る反対の方へと走って行った。

 

ゴツン!バタッ!

 

もーう、かっこ悪い。つまずいてころんだじゃないか。

誰も見てなかっただろうなぁ。

僕は頭を回してみんなを見た。でもだれも僕なんかを見てなくて、一生懸命地面を見ながら歩いている。

近眼でめがねをかけている清高なんか、ずり落ちそうなめがねを押さえながら芋虫みたいに土地の上を這っている。

よかった。かっこ悪いとこなんか見せたくはないからなぁ。

「でも、なんでこんな所に出っ張りがあるんだ。危ないなぁ。チョットかたずけとくかなぁ。」

僕は持っているホッシキングハンマーの平たい方で周りの土をほじくった。

「あれ、この石、根っこがあるぞ。斜めに入っているのかな。」

反対側を

コンコン、サクサク。

土を取り除く度に下の方が大きくなる。

「えっ、これって化石なのかなぁ。」

コンコン、サクサク。

「変な形の岩だなぁ。先生に聞いてみようっと。」

僕は目印にハンマーを意思の上に乗せてプロット先生のところへと走った。

「先生、へんな形の石なんです。ちょっと見に来てください。」

「ほー早速タカシが化石を見つけたのかな。」

プロット先生が大きな声で言ったので近くのみんなが顔を上げた。

先生、そんな大きな声で言ったら恥ずかしいじゃないか。清子なんかにらんでいたぞ。

 


「ところで先生、ここどこ?さっき聞いたけど言ってくれなかったじゃない。」

プロット先生と一緒に歩きながら僕が聞いた。

「えっ、言ってなかったっけ。タカシが聞いていなかっただけだろう。オーストラリアだよ。ウイントンって言う町。わかった?」

「でも聞かなかったよ。」

先生が言うので口を尖らせて言い返した。

「じゃ、誰かに聞いてごらん。」

「和也、今どこにいるのか知ってるかい。」

ちょうど横に居た和也に聞いた。

「何言ってんだい。オーストラリアのウイントンって町だよ。お前、頭わるいなぁ。」


和也が馬鹿にしたように言って向こうへ歩いて行った。

頭に来るなぁ。でもみんなはいつ聞いたのだろう。

 

「おっ、これか。タカシ。えらいぞ。こうやって目印をしておくと見逃す事はないからね。キャシー先生のところへ行ってカメラを借りてきなさい。」

プロット先生が言ったので僕は走った。

「キャシー先生。カメラ、カメラ。」

僕はフウフウ、ハァハァと息を切らしながら言った。

「どうしたのよ。カメラ?あっ化石を見つけたのね。」

どうして先生たちは大きな声で話すんだろう。またみんなが振り返ったじゃないか。

「はい、じゃこれを持って行って。プロット先生は一緒にいるのね。」

「はい一緒です。」

キャシー先生から手渡されたカメラを握りしめて僕はまた走った。

「はい先生、これ、ハーハーゼーゼー」

カメラをプロット先生に渡して化石を見るとプロット先生が周りの土をどかせてくれていて、1mぐらいの長さの白い土色をした骨があった。

「えーこれってさっきの石、、、、ですか。」

僕は自分の目をうたがった。すっごい。

「そうだよ、じゃ写真を撮るよ。記念写真にタカシも一緒に撮ろう。その骨の横に寝てくれるかい。」

「えー先生、骨と一緒に寝るんですか。」

僕はビックリして言った。

「ははは、馬鹿だなぁ。君と一緒に写真を撮ったら、骨の大きさがわかるだろう。」

あっそうか、なるほど。

プロット先生が写真を何枚も撮るので少し恥ずかしかった。でも最後に僕は骨に抱きついてしまった。

「ははは、この骨はタカシの彼女だな。」

先生が笑って言った。

 

「さぁドレッシングをはじめよう。タカシ僕のバックパックを持って来てくれるかい。それとキャシー先生も読んできてね、」

「はーい」

プロット先生に言われて僕は心ウキウキでまた走った。

でもドレッシング。ドレッシングってなんだろう。サラダの上にかけるのかな。でもここには野菜なんてないしなぁ。

プロット先生のバックパックを持ってキャシー先生と一緒に帰って来たらクラスメート全員が集まっていた。

「すごいなぁ、隆史。」

「やっぱり居閏博士だ。」

「どうやって見つけたの?」

みんなが口々に言う。でもつまずいてこけたなんて口が裂けても言えないよなぁ。

「ははは、それは簡単だよ。タカシはね走っていてこの骨につまずいてね、ここでこけたんだよ。でも偉いよ。これは何だろうと思って掘ったのだからね。」

えーなんで、なんでプロット先生が知っているの。そして知っててもそんな大声で言う事無いっしょ。立場ないなぁ。

「すっごい、こけたんだ。」

「やっぱり走らないといけないんだ。」

おいおい、待てよ。なんでそんなところで感心するんだよぉ。

 

「さぁ時間が勿体ないからドレッシングをしよう。キャシー、バケツに水を頼むね。」


プロット先生は言いながらバックパックの中から大きな袋を取り出した。

「はい、バケツと新聞紙。ここに置いとくね。」

キャシー先生が、うしろから言った。

えっ、なんで?だってキャシー先生は一歩も動いてないじゃん。どこから持って来たんだよ。

「よーしタカシ。まずその新聞紙をバケツの中に入れて、充分に水を吸わせて渡してくれるかい。」

えっ、えっ、えっ、どつ、どうすればいいんだよ。

「先生、僕がやりまーす。」

清高が言った。たっ、助かった。

「じゃ、タカシは別のバケツでこのプラスターを練っておいてくれ。」

へっ、なんじゃそりゃ。でもまぁいいか。先生から受け取った袋の口を開けた時、バケツと水に気がついた。

「キャシー先生、バケツと水。」

と僕が言った時、ふと見ると僕の横には水の入ったバケツがちゃんと置かれていた。

まぁいいか。

「先生、どのくらいの固さに練ればいいのですか?」

袋からプラスターの粉を半分移して混ぜながら僕が聞いた。

「タカシはお好み焼きを作った事はあるかい?」

「はい、ありま~す。」

「じゃそのくらい」

「へっ!」

「何ビックリしているんだよ。お好み焼きの粉の固さだよ。仕方ないなぁ。俺も手伝ってやるよ。」

横から福原耕太が言ってプラスターに手を突っ込んだ。

「よーし出来たらこのガーゼを一枚ずつその中へ入れて、清高が貼り付けた新聞紙の上に広げて貼り付けて行ってくれ。これを貼るのは女の子にやって貰うかな。ひとみ、そのガーゼを一枚ずつ清子に渡して、清子がプラスターに浸して骨に貼る。次に直子が同じようにする。そしてヨシミと続いてやってくれるかい。判った?」

「はーい」

スキーで骨を折って病院に入院していた僕のおじさんの足みたいなものが出来上がってきた。

「よーし、それでは清高と耕太とタカシでその骨の下側の土をとりのけるからね。そしてカズヤはその土を運ぶ。ほい、がんばれ。」

 

土がある程度無くなったとき、プロット先生の掛け声で僕たちはそれをひっくり返した。


そしておなじように化石にカバーをかけた。

「よーし出来た。タカシが発見者だからタッカシーサウルスと言う名前にしよう。じゃタカシこのステッカーを貼って。」

先生から手渡されたステッカーには001と言う番号と、日付それにタッカシーサウルスと言う名前も書かれていた。

番号は新しい恐竜の最初に発見された骨と言うわけらしい。

「さあ、もう時間も無いから化石は博物館へ送ろう。キャシー今日はありがとう。」

プロット先生がキャシー先生にあいさつしたので僕たちも

「キャシー先生。ありがとうございました」

と最敬礼をした。

僕たちが頭をあげると、そこにはキャシー先生はもういなかった。

そして化石の半分はプロット先生のバックパックに飲み込まれているところだった。

「さぁみんなのハンマーも僕のバックパックに入れてくれるかな。あっ忘れていた。」


先生があわてて言ったので僕たちもビックリ。

「先生、どうしたの?」

僕の口め。

「うん、お弁当を食べるのを忘れていたんだ。外で食べるとおいしいんだけれど、仕方が無い学校に帰って食べよう。」

プロット先生は言って、何もかも飲み込んだバックパックを軽々と肩にかけてキャラバンカーへと歩き始めた。

 

毎週、岡の上小学校6年A組の1時限目は、僕、毛利隆史の大好きなプロット先生の理科だ。

だから最近は日曜日には決まって図書館へ行って予習をするようになった。でもあの先生は次の時間は何をするって言ってくれないから、予習するにしてもターゲットが決まらないんだ

たまにクラスの仲間たちとも図書館で会うようになった。

まけるもんか。



今朝は家を飛び出して一番に教室へと入った。だってこんなに勉強が楽しいなんて知らなかったもん。

ガタッ!!

「イテッ」

「アウッチ!」

教壇を走り抜けて自分の席へ行こうとしたら、先生の机の下からヌーッと出た足につまずいた。

「どうして先生、こんなところに寝ているんだよ。」

「オータカシか。痛かったよ。」

「あっ、ごめんなさい。」

先生が蹴っ飛ばされた足をさすりながら起き上がって言った。

「でも先生。どうしてこんなところに寝ているんですか。」

「あぁ昨日はオーストラリアの友達に呼ばれてね。恐竜掘りを手伝っていたんだよ。今朝早く帰って来たから家へ帰るのが面倒くさくってね。ははは、、」

プロット先生が頭をかきながら言った。

「へーすごいね。どんな恐竜を掘っていたの」

興味深々で僕が聞いた。

「あぁあとで勉強の時に言おうと思っていたんだけれど。すごいんだよ。長さ33mもあるティタノサウルスなんだよ。日本では首長竜って言うのかな。そうそう、ヒューイみたいな恐竜だよ。」

プロット先生が顔を赤らめながら力を込めて言った。

気が付いたら周りにはみんなが来て僕と同じように先生の話を聞いている。



「先生。その恐竜の話はあとにして、このハンカチを貸してあげるから顔を洗って来なさいよ。埃っぽくって汚いわよ。」

清子がかわいいハンカチを出して先生に言った。

「オーありがとう。キヨコ。そんなに汚いかい。」

「そうだよ、汚い。」

「くさいわよ。」

「キッタネー」

先生が言ったと同時にみんなが声を揃えて言った。

「判ったわかった。じゃ話は顔を洗ってきてからにしよう。すぐ帰ってくるからちょっと自習していてね。」

「はーい、ごゆっくり。」

和也がニコニコと先生を送り出したあと、

「おい隆史。この間に先生のバックパックの中身を見てみよう。」

と僕に向かって言った。

「それは良くないと思うよ。」

でも僕が言った時には既に和也の手はバックパックに中に入っていた。

「なーんだつまんないの。なんにも入ってないや。チェつまんないの。」

ガサゴソ手で探していた和也がガッカリして言った。



クラス全員が揃って席に戻ったときに先生が帰ってきた。

「オッと危ない。」

今日はうまく腰を落として頭を打たないで入ってきた。



「さぁ今日は何から勉強をはじめようかな。」

先生は言ってカラッポのバックパックを机の上に置いた。

「さっきの話の続きをするって約束じゃんか。」

僕の口が叫んだ。

「そうか、そうか。タカシそう言うなって。わかってるよ。どこまで話したかな。そうそうティタノサウルスだったね。」

「それよりもオーストラリアのどこで掘ってたの。」

清子が聞いた。

「オーキヨコ。いい事を聞いてくれたね。あっそうそうハンカチありがとうね。」

先生はそう言ってバックパックの中から清子のハンカチを取り出した。それは綺麗に洗ってアイロンまでかかっているように元より綺麗なハンカチだった。



「デモね、あんまりその町の名前は言いたくないんだよ。クイーンズランド州なんだがね。」

先生がなんとなく言いにくそうにしているので、

「どうして、何で言いたくないのさ。聞いても僕たちは行く事も出来やしないからさ。」


また僕の口が勝手にしゃべるんだ。

「そうだなぁ、町の名前だからいいか。エロマンガと言う町なんだよ。」

「えーうっそー」

「変な名前」

「それって先生が勝手につけた名前でしょ。」

「やだー」

みんなが一斉に声を出した。

「ははは、まあまあ、みんな静かに。静かにしなさい。説明するから静かに。」

先生が大きく手を広げて言った。

「だから言いたくなかったんだよ。でもね、この町は150年以上も歴史のある町だから、、その時の日本は江戸時代だろう。そんな時に日本語ではこんな言葉は無かっただろう。判った?だから日本語の方があとから出来たんだから笑っちゃだめだよ。これはねオーストラリアのアボリジニー語で風の強い暑い台地という意味なんだよ。」

「へーそうなんだ。」

僕はつぶやいてうなずいた。

「はーい、先生。」

おいこら、僕の手と口!なんでだ!手を挙げて先生を呼ぶんだよ。勝手な事をするな。


「オータカシ。なんだね。」

「はい、えっ、あっそうだ、そのティタノサウルスはどうして死んだのですか。」

僕の口め。先生を呼んでおいてあとは知らんふりするんだから。仕方が無いから僕が言ったじゃないか。

「おうタカシ。それは難しい質問だね。人間だって病気で死ぬ人もあるし、ニュースでも聞くように殺されたり、交通事故ってのもあるよね。まぁ恐竜の場合は交通事故ってのは無いだろうけれど病気や殺されたりはあるからねぇ。このティタノサウルスはどうして死んだろうね。でもねぇ長い恐竜達の歴史の中で色々な恐竜達の種族が全滅していることもたくさんあるし、全ての恐竜達が6500万年前に絶滅したのは知っているよね。」

「はーい」

「そう、これをK-T境界って言うんだけれど、この境目に哺乳動物を残して、恐竜達は全部死んじゃったんだ。さてどうしてかな?

先生がみんなを見回して言った。

「何かの本で大きな隕石が落ちてきて死んだって読みました。」

インテリの清高が自慢そうに言った。

「おーキヨタカ。よく知っているね。そうユカタン半島の隕石説は有名だね。地質学者が言うのには隕石が落ちた穴は16kmもの深さになって、直系169km以上の穴だったそうだよ。だからそのショックで300mもの高さの津波が起こったりして周辺3000km以内の動植物は全部死んじゃったんだ。さて他には無いかな。」

「はい先生。僕は地球の陸地が動いたからだと思います。」

ふふふ、どうだ清高め。

「おっ、タカシ。良いところに目をつけたな。そう大陸の移動は2話目で勉強したね。大陸が移動して気候が変わり食料の植物が無くなってハービボーは死んだら、それを食べていたカーニボーも生きていけなくなるて勉強したね。」

「はーい」

「まだまだあるよ。大陸が移動する時に、色んな所で火山の爆発なんかが有る筈だね。そしてその吹き上がった噴煙が地表を覆ってしまって灰の中に埋もれて死んだって事も有る筈だよ。大雨で流されて死んだのも有るだろうしね。」

「でも先生、プテラノドンなんか空を飛んでいたのでしょう。飛んで逃げれば助かったのもいるのじゃないですか。」

島津直子が小さな声で聞いた。

「そうだねナオコ。そりゃぁ空を飛んでいるんだから綺麗な空の方へ逃げたら助かるだろうねぇ。でも彼らも全部いなくなったんだよ。どうしてかねえ。」

みんなも静かに考えはじめた。

「そうだ!隕石にみんな打ち落とされたんだ。」

僕が叫んだ。

「ははは、それもいいな。インベーダーゲームみたいにドンドンと打ち落とされていく。でも隕石だけじゃなくて、火山の噴火で飛んだ焼けた石なんかも打ち落とす弾になったのかも知れないねぇ。」

「そうだそうだ。バギューン、バギューン、ドンドンドン。」

僕が身振り手振りでふざけた。



「昨日もオーストラリアの大先生と話していたのだけれど、地球に電気が働いているのを知っているかい。」

「知ってますよ。磁力線の事でしょう。南極から北極に向かって流れている電気。」

先生が言ったと同時に清高が言った。

清高め!またでしゃばりやがって。

でも、知らなかったなぁ。

そんな電気があるんならタダでお湯だって沸かせるじゃんか。

「そうキヨタカ。よく知っていたねえ。磁力線の話だよ。その前にチョット待ってね。」


プロット先生は言って、バックパックの中から前に取り出した風船の地球を出した。

「さあ、この地球は今の地球だよ。でも少し変じゃないかい。さあどこが変かわかるかな。タカシどうだ。」

「えっ、なんで僕。でも、あっ、地球って少し傾いています。でもこれは傾いて無くて北極は真上、南極は真下になっています。」

急に名指しされたのでドギマギしながらだったけど答えたぞ。どうだエッヘン。

「そう、よく出来ました。ちょっと待ってね。」

先生はそう言うと手を北極にあてた。

同時に教室が薄暗くなって地球の周りが輝きだした。

南極から北極に向かって電気が流れているのが見える。

宙に浮いた地球が回転を始めた。そうして少しずつ傾き始めた。しばらくして回転がとまった。

「どうこれでいいかな。タカシ。」

「はいこれで今の地球になりました。」

僕が勇んで返事をした。

「そうだね。さっきの地球は、実はね6000年前の地球だったんだよ。」

プロット先生が傾いた地球の北極点に手を乗せて言った。

「えーそうしたら先生。このままずーっと傾いて行って横向きになることもあるんですか。」

ひとみが目を丸くして聞いた。

「そうだよ。そうして北と南がさかさまになるんだよ。」

先生が言ったとたんに地球はさっきより早く回転して徐々にもっと傾きだして横向きになった。

「えーこれじゃ、南極と北極は今の赤道じゃないですか。」

僕が叫んだ。

「そうだよ。その証拠に南極でも恐竜の骨が見つかっているんだよ。」

「じゃ、先生。このときは今の赤道は毎日、南極―赤道―北極―赤道―南極って繰り返しているんですか。」

「タカシ、いいところに気が付いたね。どう君は生きていられるかねえ。」

「そんなー無理ですよー。」

僕だけじゃなくてみんなが揃って言った。

「そうだろう。それがK-T境界に起こったんじゃないだろうかと大先生は言ってるんだ。」


「そんなあ、それってその大先生の想像だけでしょう。」

「ははは、そう言えばそうだけど、チョット見ててね。」

先生が地球の上に手をかざすともっと早く回り始めた。どんどんと北極と南極が反対になっていく。止まったときは地球が逆立ちしていた。

「さぁちょっと暗くするよ。」

電気の線が見え始めた。それは下から上に向かって流れている。

と言うことは北極から南極へ流れているんだ。



「さぁ、この証拠があるんだよ。この地球を掘っていくと色んな地層に分かれているのを知っているだろう。その地層に刻み込まれた電気の方向が交互に反対方向を向いているんだ。どうだい。」

プロット先生がお得意の手を組んで髭をしごきながら言った。

そのときバックパックの中からチョークが飛んで出て黒板に地層と電気の方向を書いた。


「さぁみんなはどう思うかな。」

先生が言ったと同時に終業のチャイムが鳴った。

「じゃ、少し自分でも勉強しておいてね。もし君たちが地質学や古生物学を勉強するようになった時には役立つと思うからね。」

プロット先生は言いながら例のように地球に針を突き刺した。チョークと風船地球は教室中飛び回ってバックパックへと吸い込まれていった。


 

後記

さぁ今回はどうだったかな。地球が傾いていくのは怖いよね。でも心配はいりません。
だって君たちは今から1万年も2万年も生きてはいないからです。
ひょっとしたらプロット先生だけは生きているかな。

 

 

ガラ。ゴン!

いつものようにプロット先生が教室に入ってきた。

もう長く住んでいるんだから入り口の高さぐらい覚えてもいいと思うんだけど・・・

僕、岡の上小学校6年A組の毛利隆史は思った。

「おーいて~! おはよう。」

プロット先生は頭を押さえながらあいさつをした。

「起立!」

横の席の清子が大きな声で言った。彼女はクラス委員長なんだ。

かわいいけれど怒ったときは怖いんだ。

「プロット先生おはようございま~す。」

全員が立ち上がって朝のごあいさつ。

「はい、おはよう。」

今日は思いっきり打ったようでプロット先生はまだ頭を押さえている。

「先生、背が高いんだから、腰を落として入ってこなくっちゃ。」

僕が大声で言った。いや僕じゃない。

僕の口って勝手にしゃべっちまうんだ。でもたまには僕自身が知らない事までしゃべるから今じゃクラスで恐竜博士ってあだ名がついたぐらいなんだ。

「そうタカシ。君の言うとおりだ。明日からはもっと気をつけよう。」



「さぁ勉強をはじめよう。教科書の23ページをあけて。」

プロット先生が例の黒いバックパックの中へ手を突っ込んでゴソゴソかき回しながら言った。

でも僕たちは全員がポカーンとしている。

プロット先生が気付いて聞いた。

「あれっ、みんなどうしたの。」



「だって私たち、教科書なんて持っていません。」

大内清子が言った。

「えっ、どうして。」

「だって先生は急に来て、それから教科書なんて使って、今まで勉強しなかったじゃない。」

すぐうしろの席で菊池ひとみが大声をだした。

お陰で僕の耳はキンキン。

「えっ、これって勉強を始める前に先生が言うあいさつじゃないの。だって、昨日、ほかの先生の授業を見なさいって教頭先生が言うから見てきたんだ。そうしたら全部の先生が同じように言ってたから。」

プロット先生が目を丸くして言うものだから僕は算数の教科書を出して、

「これが教科書。」

って言った。

「おータカシ、ありがとうね。なーんだ本の事か。じゃ、いらないね。」

「どうして~、本を読めってみんな言うわよ。TVのドラマで道明寺だって本を読め、本をって言うわよ。」

うしろの方の席のヨシミが叫んだ。ちょっと小柄で色の白いヨシミは本大好き人間だ。毎日学校での休み時間には決まって本を読んでいるんだ。

そうそうヨシミって『好』って書いてヨシミって読むんだって。



「ごめん、ごめん、ヨシミ。そうじゃないんだ。僕の授業には本は要らないねって言ったんだ。じゃ先週出てきたステゴサウルスを今日は勉強しよう。さぁ、この恐竜について知っている事があったら何でも言ってごらん。」

プロット先生は言ってバックパックの中から白いチョークを取り出した。それをプイッっと空中へ放り投げるとチョークは方向を変えて黒板へと飛んで行き、大きなステゴサウルスの絵を描き始めた。

「ワーオー」

僕は心の中で叫んだ。

「じゃタカシ、君からだ。ステゴサウルスって名前の意味は知っているかい。」

「えっ、ステゴサウルス。そりゃもう、えーっと。子供が生まれたら親達はスタコラサッサとどこかへ行っちゃう恐竜だからかな。」

急に名指しされたものだから、僕はどドギマギして適当に思った事を口にだした。

「そんなの可哀想じゃないの。」

清子が横で目をむいて僕に怒る。

「ははは、そうか捨て子ねえ。なるほど。だれかほかに知っている人はいるかい。」

シーン。

先生が言ったってそんなの知っているやつはいないよ。

「じゃ、説明しよう。『Stego』って言うのは『屋根』という意味なんだよ。最初に80cmの長さの背中にある骨の板みたいなのが発見されてね、それが屋根に貼るタイルみたいな形だったからこう言う名前がつけられたんだよ。わかったね。」

「はーい」

僕たちは揃って返事をした。



プロット先生が黒板にくっついているチョークを手にとって黒板をコンコンと叩いた。


「さぁ実物で勉強しよう。」



黒板に書かれたステゴサウルスがだんだんと太って来た。すごいや3Dになった。

今まで灰色の黒味がかった、いや緑色の濃いのかな、になってきた

形が出来た頃にポンと黒板から飛び出してプロット先生の机の上に立った。



「プロット先生。ステゴサウルスってこんなに小さいのですか。」

また僕の口だ。勝手にしゃべるなってーの。

「あぁ大人だと8mから9mぐらいになるんだけれど、今日は5分の1のミニチュアにしたんだ。だって大きいと危ないじゃない。でも気をつけてね。近ずくとしっぽで叩かれるよ。」

「でもこんなサイズならペットにしたらかわいいわね。」

清子が僕にかわいい声でささやいた。



「さて、このステゴサウルスは、いつの時代に生きていたのかな。

「はい先生。図書館で見た本には1億5000万年前のジュラ紀と書いていました。」


清高が手を挙げたと同時にしゃべっちまった。うー腹立つー。

僕だって知ってらー。

「おっ、そうか清高も勉強してきたんだね。えらいぞ。じゃ次。体重はどのくらいかな。」


「はい、2トンです。」

今度はやったぜ。僕の口が早かった。

「そう。タカシはやっぱりよく知ってるな。じゃこのステゴサウルスが食べる物は何だろう。」

「そんなの簡単だよ。勿論草なんかでーす。」

「植物でーす。」

「葉っぱだよー。」

みんなが口々に言った。

「そうかそうか、みんな良く勉強してきたね。えらいえらい。植物イーターの事を何と言ったかなぁ。覚えているかい、最初の頃に勉強したね。」

「ハービボーだよ。」

みんなが思い出そうとちょっとだけ間が空いたところへ僕が言った

今度は僕の口が勝手にしゃべったんじゃない。

えっへん。



「そうハービボーだね。肉食はカーニボーだったね。」

「はーい」

「よしよし、じゃもう一つ。これは温血動物、それとも冷血動物。さてどっち。」

シーン。

「あれっ、どうして。」

プロット先生あ不思議そうな顔でみんなを見回した。

「だってそんな事ならってないもん。」

和也がうしろの方から叫んだ。

「えっ、そうだったかな。じゃぁねついでに勉強しておこう。温血動物ってのは食べ物を食べて、それをエネルギーにして体温を保つ動物の事なんだよ。カズヤ。君がご飯を食べたら体が熱くなるだろう。」

「はーい。」

「そうだろう。じゃそうしたら人間はどっちかな。」

「温血動物で~す。」

みんなが揃って言った。

「はいよく出来ました。じゃ次は冷血動物の事だよ。これはね太陽の熱を直接貰ったり、土地や周りにあるものから熱を貰って体温を保つ動物達の事なんだ。誰だっけ家で犬を飼っているのは。」

「はーい。」

「はーい。」

先生の言葉でクラスの半数が手を挙げた。



「そうか、ひとみんちの犬はいつもどこかの土の上で丸くなって寝ているだろう。そうやって土の温かさや太陽の熱を貰っているんだよ。それが冷血動物。わかった。」

「はーい。」

「じゃ、このステゴサウルスはどっちかな。」

「冷血動物で~す。」

「はいよくできました。じゃ、今日の勉強はおしまいにしよう。タカシ、レポートにまとめておいてね。新聞に書くんだろう。」

と言ってプロット先生は時計を見た。

「あれっ、変だなぁ10分も時間が余っちゃった。じゃ何か質問はあるかな。」

誰も手を挙げないので、仕方が無い僕がしゃべるか。

「先生、このステゴサウルスって、こんな色なんですか。なんか軍隊の色みたいじゃないですか。」

「どんな声で啼くんですか。」

横から清子が聞いた。

「よしよし、じゃ色の方から考えてみよう。恐竜ってのは2億4000万年前から生きて、6500万年前にいなくなっているよね。人間の歴史は精々ン万年だろう。誰も見た人はいない訳。恐竜が見つかるのは化石になった骨とか難い外皮みたいなものだから、色なんて判らないんだよ。このステゴサウルスだって、この板のような背中のトゲも敵から身を守る為でもあるし、体温を保つ為でもあった訳だから、色も黒なら太陽熱を吸収しやすくなるし、鏡みたいだと光を反射して敵の目を晦ますことだって出来るしね。。」

と言いながらプロット先生がステゴサウルスの背中を触るとトゲが貝を貼り付けたように変わった。そして先生が背伸びをして手のひらをステゴサウルスに向けると、すごい光が先生の手のひらから出た。

その光がステゴサウルスのトゲに反射して僕達は一瞬何も見え無くなった。

「どう。こんな事も考えられるだろう。だから色は今生きている動物たちを参考にして誰かが考えたものなんだよ。清子が言ってた声も実は一緒なんだ。でも声は化石に残った骨なんかから少しは想像することが出来るんだよ。じゃ、今日は終わりにしよう。」

そう言いながらプロット先生はバックパックにステゴサウルスを押し込み始めた。それは風船のようにしぼみながら入ってしまった。

恐竜新聞 ステゴサウルスメモ                     毛利隆史



ステゴサウルスの化石は主に北アメリカで発見されている。

150myaに生きていた。

大きさは8mから9m。

名前の意味は屋根恐竜。

背中のトゲは二列になって生えている。

しっぽには4本のつのが生えて、敵が来たらこれで叩く。

冷血動物。

背中のトゲの色は黒かも知れないし、鏡のような色かも知れない。



でも、小さいとかわいかった。

 

 

 

後記

今回はバックパックの活躍があんまり無かったね。次回はもっとバックパックに働いてもらうからね。

そうそう今回からお友達が増えたんだ。名前は武田好(よしみ)ちゃんだよ。仲良くしてね。

「今日はいつもと少し違う勉強をしよう。」

プロット先生が授業開始と同時に言った。

いつものように頭をゴツンとぶつけたりが無くて、真面目くさって言うものだから、僕達はビックリした。

だから別の怖い先生の時みたいに、みんなは背筋を伸ばして先生の次の言葉を待った。


でも先生はいつものように黒いバックパックを持ち上げてチャックを開いた。

「なーんだ、先生はあんな事を言ったけどいつもと一緒じゃん。」

僕が横の清子にささやいた。

 

プロット先生が取り出したのは普通のオーバーハング・プロゼクターだ。

なーんだ、つまんないの。

今日は本当の勉強なんだ。

 

「さぁいつものように机とイスをうしろと壁の方へ寄せてくれるかい。」

「えっ先生、立ったままで勉強するんですか。」

またまた僕の口め!勝手にしゃべるな。

 

ガラガラガラ

みんな訳がわかんないって顔で教室の真ん中に大きな空間を作った。

 

「さぁまんなかに集まってくれるかな。」

みんなが集まったところでプロット先生は教壇の上の机に置いたプロゼクターのスイッチを入れた。

何故だか知らないけれど、勝手に僕たちのまわりが薄暗くなって壁に大きな白い画面が浮かび上がった。

 

「先生、なーんも映っていません。」

僕の口め、しゃべるなって。

 

「あっ、ちょっと待ってね。パソコンのスイッチが入ってなかったんだ。あれっ、パソコンは?」

プロット先生は机の横へ行ってつぶやいた。

「まだ出してなかったんだ。」

そう言いながらバックパックからノートパソコンを取り出して机に置いた。見るとパソコンからコードが伸びてプロゼクターに勝手につながってしまった。

電源コードも勝手に伸びている。

いいなぁ。あんなパソコン欲しいなぁ。

 

「さぁお待たせ。」

先生の言葉で僕達全員はうしろを振り向いた。

画面には大きなディプロドーカスが映っていた。

 

「さぁ、この恐竜は何と言う名前かな。」

「イッツ、ディプロドーカス。」

プロット先生が聞いたと同時に僕の口が叫んだ。

 

「えー貴史が英語しゃべったー。」

「ビックリしたなぁ。」

「どうしたのー。」

みんながビックリして僕を見つめている。

でも実は、自分でもビックリしているんだ。

「やっぱり恐竜博士だ。」

 

「そうディプロドーカスだね。タカシえらいぞ。さて、今日はこの恐竜も含めて彼らのしっぽの勉強をしよう。」

「えーしっぽ。」

ひろこが汚らしい感じで叫んだ。

 

「そう、しっぽ。でもね、人間以外の動物はみんなしっぽを持っているね。あれって何か働いていると思うかい。どう、ひろこ、お猿さんのしっぽって必要なものかな。」

よそ見をしていたひろこに先生が声をかけたので、彼女はドギマギしている。

「えっ、そっ、そう、あっ、そうだ、お猿さんが木から木へ移るとき、枝にしっぽを巻きつけたりしていますから、手のように必要だとおもいます。」

「うんそうだね、いいところを見ているね。じゃ恐竜のしっぽはどう言う働きをするのかな。キヨタカ。」

「はい、走ったり歩いたりする時にバランスをとる為だと、何かの本に書いていました。」


清隆が自慢そうにメガネを人差し指で少し持ち上げながら言った。

「そう、いい事を知っていたね。えらいぞ。さぁそれ以外にも知っている人はいるかな、じゃ例えば、タカシのしっぽみたいなのはどう言う働きをするのかな。」

プロット先生が言ったが、僕達は「へー」と言った。

先生は何を言っているんだろう。僕にはしっぽなんかありゃしない。

でも、みんなはなぜ僕を見て笑うんだ。指まで指すな

 

「えーなんで」

僕はうしろを見てビックリした。僕のおしりからはディプロドーカスのしっぽみたいな長いのが生えていた。

みんなは僕から離れて笑っているだけだ。

こんなのイヤダ。取ってやろうと先っぽを捕まえようとするのだが体が廻るとしっぽも一緒になって回るから捕まえられない。もうちょっとの所で手が届かない。

「わたしんちの猫のようだ!」

清子が大きな声で叫んだ。

 

僕は廻りつずけた。しっぽは同じように回るけど、たまに床をムチのように打つ。

その音でみんなは笑うのをやめた。

恐ろしくなったんだ。

 

でもまた笑い始めた。

なぜ?

だって僕のしっぽがひとみのお弁当を教室の隅まで跳ね飛ばして、それを慌ててひとみが取りに行ったからなんだ。

ひとみは怒っているけれど

僕に怒っても仕方が無いじゃないか、しっぽに言っとくれ。

見たらひとみのおしりにもしっぽが生えて来ている。

僕は思いっきり笑ってやった。

 

「重いわよ。誰か助けてー」

ひとみは床に座り込んでしまった。

でも誰も動かない。だってみんなのおしりにもしっぽが生えて大きく、大きくなっているんだった。

 

「さぁみんな。自分のしっぽを見て何と言う名前の恐竜のしっぽか言ってごらん。」

プロット先生はイスを引き寄せて、そして座りながら言った。

 

「僕のはアンキロサウルスだと思います。」

またまた清隆め。僕が先に言おうとしたのに。

「わたしのはハンマーみたいなのが先っぽについているからヨープロケェフェラスでしょう。」

「僕のはツノが生えているよ。なんだろう。」

和也が言ったので、

「馬鹿だなぁ、決まっているだろうステゴサウルスだよ。」

ふふふ、どうだ清高。僕は恐竜博士なんだぞ。

僕、毛利隆史hsふんぞり返って言った。

 

「あっ、プロット先生。しっぽは体を支える役目もします。今、隆史がやってるみたいに。」

機嫌を直したひとみがプロット先生に言った。

「おっ、ひとみ。いい所を見つけたね。さぁ、みんな。しっぽはどんな働きをするのかな。」

プロット先生が立ち上がって聞いた。

「はい、全部武器だと思いまーす。」

清子が自分のしっぽを重そうに持ち上げながら言った。

「そう、そうだね。しっぽの先がムチのようになっているのは本当にムチのように使うし、ハンマーみたいなのが付いているのは、それで相手を叩くしね。そうだね正解。武器になったりバランスをとったり、カンガルーみたいに3本目の足みたいに使って体を立て足り出来たよね。さあ、みんなのしっぽはだいたい大人の恐竜のしっぽぐらいになった筈だから長さも覚えておいてね。」

「はーい僕のはディプロドーカスだから10mぐらいありまーす。」

こら僕の口め。うるさい。

 

「はいはい、じゃそのままでスクリーンを見てくれるかな。」

プロット先生はそう言ってスイッチを押した。

スクリーンにはステゴサウルスの子供が楽しそうに遊んでいる。

「うわーかわいい。」

ひとみがかわいい声で言った。

こら、さっき怒った時の声と全然違うじゃないか。

まっ、いいか。

 

「あっ、ティラノサウルスが来たよ。」

「赤ちゃんステゴサウルスが走り出した。」

「あ、大人の方へ行っているんだね。」

 

「大人ステゴサウルスが気がついたみたいよ。」

「間に合うかなぁ。」

「早く、早く、早く走りなさいよ。」

「大人ステゴサウルスが走り出したわよ。」

「じゃ助かるね。」

見ている内にティラノサウルスが近かずいて来た、

「あっ、あぶない」

みんなが叫んだその時、

大人ステゴサウルスがティラノサウルスに体当たりをした。

今にも食いつこうとして頭を下げていたティラノサウルスは少しバランスを崩して横へ跳ね飛ばされた。

その間に赤ちゃんステゴサウルスは大人達のうしろへと逃げ込んだ。

「あーよかった。助かったんだ。」

誰かが言った時、

5,6頭の大人ステゴサウルス達がティラノサウルスにおしりを向けて横一列に並んだ。


それぞれがしっぽを振ってティラノサウルスが来たら叩くぞーと脅しをかけている。

 

ティラノサウルスは、どうしようかなっと迷っていたが、プイッと回れ右をして帰って行った。

「めでたし、めでたし。」

プロット先生が言ったとたんに僕はうしろにひっくり返ってしまった。

今までしっぽを床に立てて楽チン姿勢で見ていたのに、急に先生ったら取り上げちゃうんだから。

「おーイテー」

毎週日曜日になると友達と走り回っていた僕、毛利隆史が、昨日の日曜日は朝からノートやペンを用意して図書館へ行って勉強してくるって言ったものだから、お母さんは慌てて外へ飛び出して空を眺めて雨になるかなぁなんて言ってた。むかつくなぁ。

でも今日は楽しみなプロット先生の勉強だ。

「おはよ~」

いつもと同じ様に6Aの教室に入った。

なんで?どうして?

みんな僕の事なんか無視して静かにノートを広げて一所懸命に勉強してる。

くそ~負けたかな!

 

ごん!

「いて~!」

いつもの様に先生が入ってきた。毎回頭を鴨居にぶつけて入ってくる。どうも学習能力に欠ける先生みたいだ。

「起立!礼!プロット先生おはようございま~す」

「はい、あ~いて~、おはよう」

「先生!それどうしたの?」

菊池ひとみが大きな目を更に丸くして指さして、大きな声で聞いた。

「似合わな~~い」

「かっこ悪~~い」

みんながそれぞれに言っている。

「あぁ、これか。ホームステイしている家の人が貸してくれたんだ。背広姿もいいと思ったけれど、、、だめかぁ?」

「プロット先生には、似合わないよ~。だってズボンもちんちくりんだしさぁ」

「上着だって半袖みたいじゃん」

「やっぱり、僕も本当は嫌だったけれど、近所の人に乞食の外人が居候してるなんて言われたらしいんだ、、、、。まぁ、とりあえず上着は脱いで、、、と。さぁ、今日は何からはじめようか?」

「先生が、恐竜たちが生きていた時代を勉強するって言ってたから、昨日は図書館で勉強してきたんだぞ」

僕が一番に口をとがらせて叫んだ。

「あぁ、そうだそうだったねぇ。タカシ偉いぞ!勉強してきたか。」

先生が僕の机の横まで歩いてきて頭をなでてくれた。ゴロニャ~ン。

 

「タカシだけじゃないわよ。私もよ」

「僕も!」

「私も!」

みんなが口々に言った。なぁんだ、みんなやっぱりなぁ。くそ~

「よーし、判った。じゃぁタカシから何を勉強して来たのか発表してくれたま~え。」


変な日本語、と僕は思ったが、

「は~い、僕は昨日、図書館へ行って恐竜達を調べてきました。ヘレヤザウルスやメガロザウルス。それに、え~と、クロノザウルスなんかをみてきました」

僕は得意そうに言ったけれど、誰も何も言わない。

「ん~、タカシよく勉強してきたね。でも、その恐竜達が生きていた時の地球なんかも調べて欲しかったね。」

プロット先生がヒゲをなでなでしながら言って

「他にも勉強してきた人!」

と続けた。

「ハーイ」「はーい」

「じゃぁ、キヨタカ。次は君の番だ。」

 

ちょっと、インテリの清高は、ちらっと僕の方を見て得意そうに話し出した。

「はい、僕は先週隆史が言った恐竜を最初に見つけた人々の事を調べてきました。1822年にマリーマンテルと言う人がイグアナドンの骨を見つけていますが1809年にも別の誰かも見つけていました。そして先生と同じ名前の人もありました。」

ふん、なんだ、ちょっと頭が良いからって先生のごまなんかすっちゃって、、、クソ~。


「キヨタカ、よく調べてきたね。よしよし、じゃぁ今日はタカシの調べてきた恐竜を考えながら、その恐竜達が生きてた時代の地球を勉強しよう。」

と、プロット先生は言いながらバックパックを引き寄せた。

 

「フフフ、、地球でも入っていると思っただろう。」

僕達がそのバックパックに見入っているのを察知して先生は笑いながらチョークを取り出した。

「さぁ、地球はいつ頃出来たか調べて来た子はいるかな?」

シーン

「ははは、これを調べてきた子はいなかった様だね。じゃぁここから勉強に入ろう。今まで色々な偉い先生達が、色々な年代を考えていたんだけれど、現在の科学者達が言っているのでは46億年前に我々が住んでいる地球や太陽の廻りの惑星などが出来たんだ。チョークを見ててごらん。その時から現在までの事を書いてくれるから。」

 

先生のその言葉が終わるとすぐ目にもとまらない早さでチョークは黒板一杯に字を書き始めた。

「こら!字ばっかり書いたら訳が分からなくなるじゃぁないか。」

先生がチョークをしかった。そうしたらチョークは線を引き始め、それぞれの年代で区切っていった。

「よしよし、これで判る様になった。」

でも、僕達にはさっぱりわからない。数字とカタカナばっかりだ。

「これが地球の歴史年表だよ。わかるかなぁ。じゃぁ説明するよ。まず、左端の46億年前が地球が出来た時で、一番右の端が今の世の中だよ。ここまではわかるかい?」

「は~い」

僕達全員で返事をした。

 

「よしよし、そこで一番古い化石が発見されたのは38億年前のこのあたり、ついでに生き物で一番古い化石が見つかったのは、このあたりの5億8000万年前の物だよ。これはオーストラリアのフリンダース山脈で2003年の10月に見つかっているんだ。」

プロット先生は黒板の年表を指さしながら言って、僕達の顔をゆっくりと見回して言葉を続けた。

「まぁ、みんな判った様だから、、、、話しを続けるけれど、、、生き物が生きている時代を大きく3つの期間に分けているんだ。でも恐竜が生きていたのは2億4500万年前から6500万年前までの中世代だけだから、僕達の勉強はこの期間だけにしよう。」

先生がそう言うとチョークは勝手に中世代以外の字と数字を消し始めた。

 

「さぁ始めよう。この中世代も大きく3つの時代に分けているんだ。」

チョークが又、忙しそうに中世代を3つに分けてそれぞれの年代と名前を書いた。

「さっきタカシが調べてきたと言ってたヘレヤザウルスは、この最初の三畳紀に住んでいたんだよ。でもねヘレヤザウルスって言ったら他の国の人には通じないからヒューレャーザウルスと覚えようね。これは長さが2mぐらいだから人間と同じくらいの大きさだけれど、同じ時代のイイオラプターなんか小さくて1mぐらいの大きさしか無いんだよ。でもプレティオザウルスなんかは大きくて8mもあるからすごいけれど、大きいのはだいたい植物イーターだから逆に小さい恐竜の方が恐いんだよ。」

と言いながらプロット先生は黒板に恐竜の名前を書いた。

「じゃ、ヒューイもプレティオザウルスだったんだ。」

僕が言った。

「そう、よく覚えているね。じゃぁ植物イーターの恐竜達の事を何と言ったかな?」

「ハービバー!」

僕達は全員が口を揃えて叫んだ。

「すご~い、みんなよく覚えたね。じゃ、肉食恐竜は?」

「カーニボー!」

約半分ぐらいの僕達が叫んだ。

 

「ハハハ、、、まぁいいか。じゃぁ次のジュラ紀の勉強をしよう。タカシが2番目に言ったメガロザウルスは、このジュラ紀に生きていたんだヨ。二本足で歩いて高さは3m。長さは9mもあるんだよ。そして歯はノコギリの刃の様に1本1本がなっているんだ。ジュラシックパークの映画をみんな見たって言ってたから感じは判るよね。」

「はーい」

 

「じゃぁ次は1億4500万年前から6500万年前の白亜紀だ。日本ではこの期を白亜紀って名前を付けているけれど、クレタシアス期と覚えた方が良いよ。何故かって?だってこれから君達が大きくなって外国の本なんかを見る様になった時、こんがらがって判らなくなるからだよ。話しが変わっちゃったけれど、、、なんだったっけ、、、、あっ、そうそう、白亜紀だ。さっきタカシが言ってたクロノザウルスは、この時期のものでオーストラリアのクイーンズランド州で完全体の化石が発掘されているんだ。でも、これはダイナソアじゃ無くて海の中に住んでいたんだ。さぁ何て言ったかなぁ?」

「マリーンレプタイル!」

先生が言ったとたんに僕が叫んだ。フフフ、、、

「すご~い隆史!」

「さすが~恐竜博士!」

みんなが叫ぶのでちょっと得意になってきた。

「タカシ!よく覚えているね。空を飛ぶのはフライングレプタイルだったね。これも勉強したね。」

「はーい」

ちょっと頭の中がこんがらがって来た僕達は、それでも小さな声で返事をした。

 

「おいひとみ。今日の勉強って、なんにも出てこないから面白く無いなぁ」

僕が横の菊池ひとみに小声でささやいた。

「ハハハ、少し今日は難しかったかなぁ、やっぱり見た方が良さそうだね。」

と先生は言ってバックパックから青い風船を取り出した。

やったー!成功!だって先生はどんな小さな声でも聞き取るから、僕の送った信号にすぐ反応をしただろう。フフフ。

 

「ちょっと真ん中の6つの席を空けて広さを作ってクレル?そしてこれを一番元気なタカシ、君が膨らませてくれ!」

とその風船を投げた。それは確実に僕の上に届いた。すごいコントロール!

僕達は立ち上がってワイワイガヤガヤと言いながら空間を作った。

 

「ヨシヨシ充分だ。じゃぁタカシふくらませて。」

と、プロット先生が言ったので、僕は大きく息を吸い込んで、それをふくらませた、幾ら吹き込んでも幾らでも入る。机4つ分ぐらいの大きさになった時、先生が

「もうイイダロウ」

と言ってくれたので僕は助かったって気分になったぐらいだ。

先生はそれを空間の真ん中に置いて

「これがなんだかわかるかい」

と聞いた。

「地球で~す」

全員が叫んだ。

「でもちょっとおかしいで~す。この地球は陸地が一つしかありません。」

ひとみが少し控えめに言った。

「そうだよ、そうだよ」

「変だよ~」

みんなが口々に言うのを、大きな手を広げてプロット先生は

「ワカッタ、ワカッタ。でもね、これが昔の地球なんだよ。今勉強した約2億2000万年ぐらい前の三畳紀はパンジェーラ大陸と言って世界はこれだけだったんだよ」

と言ってバックパックを取り上げ、手を突っ込んで大きな虫眼鏡を取り出して

「ジャ、これで見てごらん」

と、ひとみに渡した。

「すご~い、恐竜がたくさんいるわ!」

「え~貸してかして!」

どうしてなんだろう、僕はすぐに反応する。

「本当だ動いているよ」

「ちょっと貸してごらん」

先生が言って、その虫眼鏡を片手でこするとレンズが大きくなって地球の三分の一ぐらいをカバーする様になった、しかも、手から放れて宙に浮いている。

「これでみんなが見られる様になっただろう。」

「あっ、ヒューイがいる。」

「どこ、どこ」

「プレティオザウルスだね。何をしているかヨク見てごらん。」

と、プロット先生が言ったので、僕達はプレティオザウルスばかりを探した。

「みんな幸せそうに木の葉っぱを食べてるわ。」

ひとみが言ったとき、横にいた清高が

「あっ、違う種類のが近づいて来た!」

と叫んだ。

「ヘァエァラザウルスだよ。見ててごらん。」

先生が指さして言ったのでみんなが一個所に集まった。

「プレティオザウルスは知らん顔だね。」

「あっ、ずいぶんと集まって来たよ。」

「ヒューイ!危な~い!」

「ずいぶんと小さいなぁ」

「あっ、一匹が足に噛みついた。」

それでようやく気がついたプレティオザウルスが大きくて長いしっぽを廻して来てヘァエァラザウルスを跳ね飛ばそうとした。

別のが左後ろ足に噛みついた。しっぽに噛みついたやつもいる。でも、しっぽが動くから同じように振り回されている。

別のが飛び上がってのどにも噛みついた。

 

「ヨ~シ、じゃぁ三畳紀は、このぐらいにしておいて、次のジュラ紀に行くよ。」

とプロット先生は言って地球のてっぺん、北極か、、の所に人差し指をあてた。すると地球はものすごい勢いで回りだした。しばらくして

「そろそろイイダロウ。」

と言ってまだ廻っている地球の上に同じように人差し指をあてた。すると地球の回転がゆっくりとなり、元の様に虫眼鏡で見ることが出来るようになった。

「あっ、今度は陸地が2つに別れている。」

と、菊池ひとみが叫んだ。

 

「ソウ、この時代にはパンジェーラ大陸が分裂してゴンドワナ大陸とローラシア大陸とになっているんだよ。よく見てごらん。」

先生が言ったので、僕達は又虫眼鏡をのぞき込んだ。

「あっ、ここにもヒューイがいるわ!」

弘子が言ったので

「どこどこ!違うよ!ヒューイの背中にはこんなトゲは無かったよ。」

またまた僕が反応した。

「オー、よく気がついたねタカシ!これはディプロドーカスと言って、大きいのでは27mもあるんだよ。アッ、そうだ。面白い事にこの恐竜の足跡の化石に前足だけで歩いたと言うのが有るんだよ。なぜだかワカルカイ?」

プロット先生が楽しそうに言ったけれど、、、誰も何も言わない。

「逆立ちして歩くダイナソア!」

又、僕だ。僕の口め!

「ははは、、、、タカシの発想はすごいねぇ。学者でも考えなかっただろうなぁ。実はね、この種類もハービボーなんだョ。そして敵が来たときには背丈があるから浅い海と言っても20mぐらいの深さの所まで逃げられるだろう。もし小さなカーニボーが追いかけてきてもおぼれてしまうし、このディプロドーカスは少しは水に浮くんだ。でも泳ぐことは出来ないから前足を海底に着けて歩く。判った?」

「は~い」

みんなは大きな声で返事をしたが、僕は誉められたのかけなされたのか判らないから小さな声だ。

 

「あっ、これ面白い!新幹線の新しいのぞみ号の前みたいな顔してる。」

また、弘子が新しい発見をしたみたいだ。

「どれどれ、どれだい?」

僕が一番に反応する筈なのに今回はプロット先生が一番だった。

「へ~、新幹線ののぞみ号ってこんな顔をしているのか。知らなかった。これはねバーロザウルスだよ。アメリカのソルトレイクシティのミュージアムに26mもあるスケルトンが展示されてるよ。そうか、、、のぞみ号か、、、」

ヒゲをなでつけながらプロット先生は言葉を続けた。

「な~んだ先生、新幹線に乗った事無いの?」

またまた僕の口だ。

「そうなんだよ、ホームステイ先と学校しか知らないんだ。タカシ、今度先生を案内してくれるかい。」

「は~い」

今度は大きな声で返事した僕、実は勉強のお手伝いはチョットだけれど、それ以外ならおまかせの僕だ。

 

「先生、この小さいヒューイに似た恐竜も背中にトゲがあります。これってさっきのディプロドーカスの子供ですかぁ?」

虫眼鏡をのぞき込んでいたひとみが小さな声で聞いた。

「アッ、それはねディプロドーカスでもプレティオザウルスでも無くて、エ~ット、、、ステゴザウルスって言うんだ。変な名前だろう。デモすぐ覚えられるよね。首がディプロドーカスなんかとちがって短いだろう。このステゴザウルスは歯の化石なんかから柔らかい葉っぱや植物しか食べないってことが判っているんだ。長さは9mぐらいだから、ヒトミが言ってる見たいにディプロドーカスの子供見たいに思うよねぇ。でも、よく見てごらん、しっぽに4本のスパイクがついているだろう。これで襲ってきた敵をやっつけるんだよ。」

先生は別に、地球をのぞき込もうともしないで説明を始めた。

「同じ様なのにブラキオザウルスなんかもいるよ。この時代にはドライオザウルス、アロオザウルスや、色んなフライングレプタイルなんかもいるだろう。よく見てごらん。」

 

「前のえ~と、三畳紀には赤土の山なんかばっかりだったけど、このえ~と、ジュラ紀には緑のジャングルみたいになっているわ。」

普段でも植木や花の好きなひとみがつぶやく様に言った。

「ソ!そうだよ。ヒトミよく気がついたね。この頃は地球全体が暖かくなったのかも知れないね。ジャァ次の時代も見てみよう。」

と言いながら先生はまた、北極あたりに人差し指をあてた。地球は又回転速度を速めた。

 

「危ないから少し離れていた方がイイヨ。」

先生に言われるまでもなく僕達は回転する地球から遠ざかっていた。

「サテ、もういいだろう。」

小さな声で数を数えていたプロット先生は言って、同じ様に指を地球の頂点(やっぱり変だなぁ、北極点)にあてて回転を遅くして言った。

「サァ、もう中生代の最後の白亜紀だ。サァ、みんな覗いてごらん。そして気付いた事を聞かせてくれるかい。」

僕達は地球の周りに集まって一斉にレンズをのぞき込んだ。

「あっ、花が咲いているわ!」

一番にひとみが叫んだ。なんだよぉ、一番は僕の専売特許なんだぞ~。

「鳥も飛んでいるよ。」

「先生、フライングレプタイルの羽根が長くってグライダーみたいで~す。」

うー清高め!僕も気づいていたのに先に言われた。

「そうだね、みんな色々と気づいた様だね。もうこの頃になると色々な動物や植物が進化して以前とは姿が違っているんだよ。」

 

「あっ、ヒューイが泳いでいる~」

「本当だ!」

おいおい、先生が説明してくれているのに直子や弘子が勝手に叫んだ。

でも、あれはマリーンレプタイルだから違うのに、、、

「それはよく似てるけれど、今、タカシが考えている様に、プレシオザウルスって言ってマリーンレプタイルだよ。」

な、なんでや~~僕の頭のなかを先生は見れるのか?そしてどうしたの?みんな不思議に思わないでうんうんって納得すんなよ~~

「考えてみたらヒューイと名前もよく似てるね。さぁ、それ以外に前と変わっている所を探した子はいるかな?」

先生が言ったので、僕の手が勝手に挙がった。

「オッ、タカシ、何に気がついたのだい。」

「え~と、、、、えーと、、、そうだ!陸地がたくさんの島に別れています。何か今の地球に似てきました。」

「タカシよいところに気がついたね。たぶんみんなも気づいていただろうけれど、、、地球が回っている間に何億年も時代が進んだので、ゴンドアナ大陸からアフリカや南アメリカやインドが分裂していったんだ。パンゼーラ大陸からは北アメリカやヨーロッパ、アジアが分裂しているだろう。でもそれぞれの島に見える土地の間の海はシャローシーといって深さが0mから60mぐらいの浅い海で、又もっと時代が進むとそれらがくっついたり離れたり、そして隆起や陥没を繰り返して今の地球が出来上がっているんだよ。」

「じゃ、恐竜達がエサを探すのに海があったらこまるじゃん。」

又、僕の口め!勝手にしゃべるな!

「そうだね。恐竜達の住んでいる島に食べ物が無くなったらどうなる?」

「死んでしまいま~す。」

こら、ひとみ!僕より先にしゃべるな。

「そう、ハービボー達が死んでしまったら、今度はカーニボー達も死んでしまうよね。さあ、来週は恐竜達がどうなったかを勉強しよう。じゃ、今日はこれでおしまい。恐竜新聞に書いといてね。」

プロット先生はそう言いながら手に持った針を地球に突き刺した。とたんに地球はすごい勢いで教室中を飛び回り、先生のバックパックの中へ吸い込まれて行った。

僕、毛利隆史は週に一度のプロット先生の授業が待ち遠しかった。

「おはよ~」

いつもと同じ様に6Aの教室に入った。僕はびっくりした。

僕の机もイスも無い、もちろんみんなのも。先週の授業の事を考えて早く来た清高達が先に壁際やうしろへと片づけてしまっていた。

な~んだ、みんなも僕と同じで待ち遠しかったんだ。

「キンコーン」

始業のベルが鳴ったのに先生は来ない。

「清高!君が机を片づけたりするから先生の寝るところが無くなって来ないのじゃぁ無いか。」

僕がちょっと強く言ったので、弱虫の加藤清高がべそをかいて、

「だって、、、、だって」

「ガラッ!ゴン!」

「あっ、痛い!」

と言いながらリンボーダンスの様に足を広げ、腰を落とし、天井を見ながらプロット先生が入ってきた。

「日本の家は痛くて困る。」

と言ってハゲ頭を僕達の方へむけた。そこには3枚もバンドエイドが貼られていた。

「しかし、今日はどうしてみんなは立っているの?」

「だって、どうせ片づけるのでしょう。」

僕が言った。

「残念でした。今日は最初にお話をするから元通りに戻して。」

僕達はな~んだって顔をして机とイスを元に戻した。

「起立!礼。プロット先生、おはようございます。」

学級委員の大内清子の声でいつもの朝の挨拶だ。

「はい、おはよう。さて今日は先週の続きでヒューイが生きていた頃の話をしよう。みんなジュラシックパークを見たかい?」

「は~い。」

全員が一斉に手を挙げた。

「そうかじゃぁイメージは出来ているね。そうしたらその話は後にして、恐竜はいつ頃発見されたか勉強してきた子はいるかな?」

「は~い」

どうしてだろう。頭で考えるより勝手に僕の手が挙がる。しかも勉強なんて一番嫌いだから予習なんてしたことも無いのに、、、、

「オー、タカシすごいね。どんな勉強をしてきたのかみんなに話してくれるかい。」

「はい、一番最初にメガロザウルスを発見したのはイギリスのウイリアム・バックランドと言う人で1824年に発表してます。」

みんなが目を丸くして僕を見ている。でも、、、、僕もこんな事は知らないのに勝手に口がしゃべっている。

「そうだね。よく調べてきたね。でもね、それより2年も前にお医者さんの奥さんが同じ様な骨を見つけているんだ。それにしてもタカシは勉強が嫌いなのに偉いねえ。みんなに隠れて日曜日に図書館へでも行って勉強してきたのかな。」

僕はもう何もかも訳が分からなくなってきた。でも、誉められるのも悪くは無いなぁ。


「恐竜新聞の編集長じゃなくて恐竜博士にしよう。」

清子が叫んだ。

「そうだ、そうだ。」

「隆史は恐竜博士だ!」

「ハハハ、、、タカシは恐竜博士か。そうしたらこれからもみんなに色々と調べてきて教えなくちゃぁいけないなぁ。」

先生が僕の横へ来て頭をなでながら言った。

ヘヘヘ、、、なんか知らないけれど変な事になったなぁ、でも、、まぁいいか。

「じゃぁ話の続きをしよう。さっきタカシが1824年の話をしたけれど、実はね1677年に僕がメガロザウルスの大腿骨って足の骨だけれど見つけていたんだよ。でもね、そのころは恐竜が実在したなんて考える人は居なくて1800年代の中頃まで、その骨は大男の骨だなんて言われてたのさ。だから本当は僕が世界中で一番最初に恐竜を見つけたんだよ。まぁその時はこんなハゲ頭ではなかったけれどね。」

いったい先生は何を言っているんだろう。だって先生は40歳ぐらいにしか見えないのに、、、でも、、、、まぁいいか。

でも、なぜだろう。みんなはウンウンとうなずきながら聞いている。

「だからね、恐竜が発見されて学問として出来上がったのは150年ぐらい前からなんだよ。何が言いたいかと言えば、、、、そんな短い間に見つかった恐竜なんてまだ数える程しか無いから、新しく見つかるたびに歴史が変わっていくんだ。だから僕が教える事も明日にはウソになっているかも知れないって事を先に知っておいて欲しかったんだ。わかった?」

「は~い」

みんな揃って返事をしているけれど本当にわかっているのかなぁ。僕はわかるけれど、、、「じゃぁ今日はこれでおしまい。」

「え~何で?」

「何も勉強してないじゃん。」

僕と多古弘子が同時に叫んだ。

「エッ!何もしなかったっけ」

「頭を打っておかしくなったんじゃない」

島津直子がコソッと言った。

「オー、ナオコ!そうだよ。頭を打ったから忘れていたんだ。ごめんごめん。」

先生はどんな耳を持っているんだろう。誰にも聞こえなかったのに。

「えーっとメモメモ、、」

と言って自分の左の手のひらを眺めている。僕がそっと立ち上がって見たけれど、何も書いてなかった。

「あっソウダ!」

先生は小さくうなずいて頭の絆創膏を一枚はがして言った。

「ここに書いてあったんだ。」

普通バンドエイドにメモするか、、、、変な先生。

「そうだそうだ、、化石を勉強するんだった。今日は化石がどの様にして出来るかを考えてみようね。」

言いながら先生はバックパックのチャックを開けてゴソゴソと何かを探している。取り出した物はジャーン!

なんだ単なるチョークだ。僕もみんなも期待して先生のバックパックを見つめていたのに。続いて取り出したのがヒューイと同じ様なプラスチック製の小さな恐竜だ。これがまた大きくなるんだと、僕達はワクワク。

「この恐竜はね、今、岩が落ちてきてね、それにあたって死んだんだよ。」

と言いながらプロット先生が頭からしっぽまでをゆっくりとなでるとプラスチックだったのが、本物の恐竜が横たわっている様になってきた。

僕達はみんな席を立って先生の廻りに集まった。

ふと見るとチョークが勝手に黒板に水槽の絵を描いている。底には土が入っていて半分ぐらい水が入っている。

プロット先生はその中に手にした恐竜を静かに入れた。

恐竜はゆっくりと水の中を落ちて行き、身体の横半分ぐらい土の中に埋もれて横たわった。

「みんなよく見ているんだよ。」

先生が言ったとたんに水面にさざ波が立ち始め、それが目にも見えない程の早さで動き出した。でも恐竜の廻りの水は動かない。

「あっ、しっぽの方から骨が見えてきた。」

「おなかの骨も見えてきた。」

「土が増えてきたね。」

みんなそれぞれ勝手にしゃべっている。

恐竜が骨だけになった時、それは総て土の中に埋もれていた。更にそれから何層にも土が乗っかっていく。最後には水がなくなって、土だけになった。

一番底の層に恐竜が横たわって埋もれているのが見える。

「どうだね、判ったかな?これは数百万年もの間をVTRの早送りみたいにして、みんなに見て貰ったんだけれど、、、、、こう言う風にしてゆっくりと化石になって行くんだよ。」言いながらプロット先生はバックパックを引き寄せて

「これは少しおいておいて、、、、変な日本語、、、、ちょっとこれを見てくれるかな。」


取り出した物はやっぱりプラスチックのおもちゃだ。

先生はそれの羽根を優しくこすってやってから空中へと放り投げた。

「キャー」

清子が頭を押さえて叫んだ。

それはコーモリみたいな羽根を持っていて顔は恐竜で、しかも大きな長いくちばしを持っている。

飛び始めてすぐ清子の頭にある髪止めが気に入った様子で、清子の頭を襲ったんだ。

教室をぐる~っと一周して帰ってきた所をプロット先生がつかまえると元のおもちゃに戻っていた。

「これはプテロザウルスと言う名前だよ。でもこれはダイナソアじゃぁないんだよ。」


と、プロット先生は言いながらそれをバックパックにしまい込んだ。

「でも何とかザウルスって言うんだから恐竜でしょう。」

僕が言った。

「そうだね、よいところに気がついたネ。タカシ!でもねダイナソアは空を飛ばないんだ。日本では何でもまとめて恐竜って呼んでいるけれどね。これはフライングレプタイルと言ってねダイナソアじゃぁないんだ。」

と言いながら先生は、またバックパックから一つのおもちゃを取り出した。今度はヒューイみたいな形をしているからダイナソアだ。

見るとチョークが別の水槽の絵を黒板に描いている。

その間、プロット先生はニコニコしながら手にしたおもちゃをさすってやっている。しばらくして半分ほど水が入ったその水槽のなかへとそろっと、その恐竜を入れてやった。少しの間、それは水に浮かんでいたが、ゆっくりと潜って泳ぎ始めた。

「わぉ~、これも生きてるじゃん。」

「かわいい~~。」

 僕達は口々に言いながら黒板の水槽の方へ行った。そこへプロット先生の手がにゅーっと伸びてきて、その恐竜をつかんで水槽から出した。とたんにそれは元のおもちゃに還っていた。「さあ、これもダイナソアじゃあ無いんだよ。」手を拭きながらプロット先生は僕達に言った。「じゃぁ、先生、ダイナソアって何ですか?」また、僕の口の出しゃばりめ!「ははは、そうだねタカシだけじゃなくてみんなもちょっとこんがらがって来たんじゃぁないのかな。前にも言ったと思うけれど、ダイナソアって大きな変なトカゲって言う意味だから、空も飛ばないし、海でも泳がないんだよ。だからこれはマリーンレプタイルって言うんだ。日本では分類していないから空を飛ぶのを翼竜、海で泳ぐのを海竜としておこうかな。」手にしたおもちゃをつまんでみんなに見せながらプロット先生は言って、バックパックの中へそれを放り込んだ、、、が、思い直したのか又、手を突っ込んで、今度は小さなスコップを取り出した。スコップが今度はどうなるのだろうかと僕達は一斉にそれを見た。「もうそろそろ出来上がっている頃だから、キヨタカ!これで恐竜の上に乗っかってる土を外へ出してくれるかい。」「は~い」清高が大きな返事をしてスコップをつかんで黒板へと向かった。なぜか清高が掻き出した砂や土がタンクから外へ出ると消えてしまう。でも恐竜の骨の上の層までは確実に無くなって行ってる。コツンと音がして清高の手が止まった。「先生!固くてスコップじゃ掘れません。」「よしよし、うまく出来上がった様ダナ。ちょっと貸してごらん。」清高からスコップを受け取って柄の方をコンコンと打ち付けるとスコップの先がハンマーに変わっていた。先週に見た例のホッシキングハンマーだ。「さぁ、これで骨の廻りの岩をコンコンと叩いてごらん。」清高がそれを受け取って先生に言われたとおりにやった。すると恐竜の廻りの岩がきれいにひび割れした。「うまいぞ、キヨタカ、ヨシヨシ、ちょっと僕と替わってくれるかい。」と言ってプロット先生は水槽(と言っても元は水が有ったが今は無い)の中へ両手を入れて清高が割った石を持ち上げて机の上へと置いた。そうして、又ハンマーでコンコンと軽く全体を叩いて、バックパックからはけを取り出して掃除をした。「こういう風にして骨だけが表面に出る様にしてごらん。まずキヨタカ、口で上のゴミを吹き飛ばしてね。」清高が2,3度繰り返すと恐竜全体の化石が出てきた。「ワーォ」僕の口から出た言葉、、、「僕にもやらせて!」「私にも!」「ワーォ、僕達の化石だ!」「そうだね、これはだいたい1億2000万年前の恐竜だよ。ジャ、今日の勉強した所も新聞に書いておいてねキヨタカ!来週は、、、来週は、、、エ~ット、どこにメモしたかな、あっそうだ。」と言いながらプロット先生は頭の絆創膏を、また一枚はがして「来週は恐竜たちが生きていた時代を勉強しようね。今度はみんなにも発表して貰うから、家で勉強してきてね。」と言いながらプロット先生は僕達の化石をバックパックにしまい込んだ。

「おっはよ~」

月曜日の朝、僕、毛利隆史は元気に6Aの教室へ入った。いつもは静かな教室なのに、なぜか今日はガヤガヤワイワイだ。

「これ、だれ?」

「外人だよ」

「どうしたの?何があるの?」

と、僕もみんなが騒いでいる方へと寄って行った。

そこには背の高い?いや足の長い外人が、弘子の机の下に黒いバックパックを置いて、それを枕にして眠っている。

頭はハゲていて両耳の上にだけ天然パーマの毛がぐちゃぐちゃになってはえている。口の廻りのヒゲもはえ放題。かけたトンボメガネも半分ぐらいずり落ちて、やっと高い鼻のところで引っ掛かっている。着ている服も土臭くて何となく汚い。

「なんで、こんな所に外人の浮浪者がいるんだろう」

僕が言った時、ガラッと教室の戸が開いて教頭先生が入って来た。

「みんな静かに!今日から新しい先生がこのクラスに来る事になっている。もう来ていると思ったんだけれど。」

教頭先生のその声が終わると同時に僕達は寝ている外人を一斉に見た。

「えっ!これが?」

「まっさか」

「こんなハゲ外人が先生なわけないよね」

僕が小さな声で横にいた直子にささやいた時、ゴン!と大きな音を立てて、その外人が起きあがろうとした。

「オー、イタイ」

彼の口から出た最初の言葉だった。

「あっ先生いらっしてたのですか、じゃよろしくお願いしますよ」

と、教頭先生は出ていった。

「じゃやっぱり、このハゲ外人が僕達の先生!」

僕が小声で言ったのを横の清子が

「シー」ととめた。

「いいよ、いいよ。僕から自己紹介するから」

と、その外人がよっこらしょっと起きあがりながら言った。

普通なら僕の声なんか先生に聞こえる筈は無い程で言ったのに。

先生はチョークを持って黒板に{クルー}と書いて

「僕はクルーだよ」

と言った。

そこで横の席の清子が

「起立!」

と掛け声をかけたので、僕達は一斉に立ち上がって

「クルー先生。おはようございます」

と挨拶をした。

「ハハハ、、、ちゃうちゃう僕はドクター・ロバート・プロットだよ。僕の言ったクルーとは新しい勉強を始める仲間と言う意味だったんだよ。」

と言って名前を黒板に書いた。

僕達は外人の先生が日本語を話すので全員がホッとして席に座った。

「さてタカシ!ハゲてて悪かったね。それからナオコ!浮浪者みたいな服って言ってたけれど、これは僕の制服みたいなものなんだよ。」

あれ!どうして先生は僕達の名前を知っているんだろう。今日、と言うよりか今会ったばかりなのに、、、、まぁいいか。

僕達はクシュンと沈んでしまった。

「ハハハ、、まぁそんなに気にはしてないけれどね。そうそう僕の制服って言ったけれど、本当はこんな所で教えるより外でホッシキングをするのが仕事なんだよ。」

「先生!ホッシキングって何ですか?」

僕が手を挙げて聞いた。

「オー、タカシ!いい事を聞いたね。ホッシキングってのはね、化石なんかを探す事を英語で言うんだよ。」

「化石って、あの古い骨の事?」

「そう、死んだ動物の骨や植物なんかの事だよ。」

「え~、気持ち悪~い!」

いつも静かな弘子が叫んだ。

「そんな事は無いよ。じゃ、別のクルーを紹介しよう。」

と言って、先生はバックパックのチャックを開けて中をかき回してラグビーボールぐらいの大きさの石を取り出した。

「これは何かわかるかい?」

「石!」

僕達は一斉に言った。

「ハハハ、、、、そう、石だよね。」

と、プロット先生は言って、またバックパックに手を差し込んで一本のハンマーを取り出した。でも、、、そのハンマーは普通のハンマーと少し形がかわっている。お父さんが普段使ってるものとは確かに違った。釘を叩く方は同じだけれど、反対側は小さなスコップみたいだ。

「ちょっと見ててごらん。」

と先生は言ってから、机の上に置いたその石をハンマーのスコップの様な側で軽く叩きだした。

コンコンコンコン、、、、、、、、、

「このハンマーはね、ホッシキングハンマーと言ってね、こういう風に岩を叩いて割るんだよ。」

コンコンコンコン、、、、、、、、、

僕達はどうなるんだろうと全員がイスからお尻を浮かせて、その石を見つめた。

ラグビーボールの長い方の廻りに浅いみぞが出来たところで先生は少し力を入れてパカッと半分に割った。

その半分の石の割れ目を僕達に見せて

「じゃ、これはなんだい?」

「恐竜!」

僕達は同時に叫んだ。

その石の割れた面には小さな恐竜の骨が頭からしっぽまできれいに揃って張り付いていた。

「かわいい~~」

「ちっちゃ~い」

口々に叫ぶのをプロット先生は制して

「そう大正解。これから僕達はこの恐竜について勉強を始めよう。でもチョット広いかな。」

言いながら先生は教室をグルーッと一周して

「あっ、間違った。狭いかなだったよね。さぁみんなの机とイスを全部うしろと壁に寄せてくれるかい。」

僕達は、どうして勉強をするのに机やイスがいらないのだろうと思いながらも先生の言う通りにした。

僕達は教室の中央に大きなスペースを作った。

「じゃぁタカシ。その恐竜を床の真ん中に置いてくれるかい。」

と先生が言ったので、先生の机に行って乗っかってる恐竜を取って床に置いた。あれ!石は?いつの間にか元の石は消えていた。机の上から先生が片付けたのかな?でも、、、 先生は教室のうしろの方に立っているし、、、、、、まぁいいか。

先生は両方の手を顔の前で擦り合わせて、何かにお祈りをしている。

僕は横に立っている清子にささやいた。

「先生はどうして僕の名前を知っていたんだろうね」

清子も不思議そうに思っていた様子で言った。

「そう、プロット先生が来てから、何か変よ、、、、」

「さて、いいかね」

先生が床の真ん中へ歩いてきて大きく手を広げて言った。

「さぁ、みんなモットうしろに上がって!」

先生は、僕達が不思議そうな顔をしているのを見て、少し考えて

「あっ、ごめん。うしろに下がってダッタ。さぁ、ヒューイが大きくなるから。」

僕達はそんな事はあり得ないと思っているから、直子が恐竜の骨を指さして

「大きくなってる~」

っと叫ぶまで誰も動かなかった。

本当にそれは大きくなっている。机よりも大きくなった。車よりも大きくなった。そして天井に届くかなと思った所で止まった。

勿論、僕達は先生に言われるまでもなく、一歩一歩と退いて、今では壁に寄せた机の上にお尻を乗せるまで離れていた。

「わ~ぉ、さっきの骨はわたしの家の一歳の犬ぐらいだったわよ。」

ひとみが名前と同じ様に目を大きくして言った。

「違うでしょ。生まれて一週間目か二週間目ぐらいの大きさだったわよ。」

と弘子が叫んだ。

「でも今では、恐竜の骨のおなかに私が入るぐらいじゃない」

またひとみが言った。

「あっ、また!」

「ふるえてる!ゆれてる!」

清高が教室の隅で震るえながら言った。

「ははは、、、震えているのは清高じゃないか」

と僕が言った。

「何言ってるんだ。見てごらん君の足も震えてるじゃないか。」

実際、僕の足も立っているのがやっとの状態だった。

いつの間にか僕達は小刻みに移動して、全員が教室の片隅に、、、、、恐竜のしっぽの方へとかたまってしまっていた。

「臭わない?」

「うん、臭くなってきたね」

「誰か、おならをしたでしょう」

「ひとみのおなら!」

「違うわよ!」

「うわぁ、くさい!」

「あっごめんね。やっぱり少し臭うね。でもすぐに慣れるから、ちょっと、辛抱してね。」


プロット先生がみんなを見回して言った。

既にその時には骨だけだった恐竜に肉も皮も付いて、本物の恐竜に変身していた。

 

恐竜はその長い首をゆっくりと持ち上げて、ぐる~っと見回して顔をプロット先生に近づけた。

先生は恐竜の目をじ~と見て、優しく言った

「僕は君のママじゃぁないよ。ヒューイ」

恐竜は首をかしげて、今度は僕の方へその首を廻して聞いた

「本当?」

僕達は一言も言えず立ちつくしていた。

何しろ恐竜を見たのも初めてだし、恐竜に話しかけられるなんて、、、しかも日本語で!

でも僕は震える足を両手で押さえながら、勿論、目は恐竜からは離さないで。みんな、僕達全員が最も知りたい事をプロット先生に聞いた。

「プロット先生!この恐竜は僕達を食べるの?」

プロット先生は両腕を組んでヒゲをなでながら言った。

「さぁねぇ、、、でももし君達がこのヒューイの事を知りたいのなら、彼に直接聞いてごらん。」

でも僕には恐竜に話しかけるなんて勇気は無かった。何しろ両手は両足のふるえを押さえるだけで、顔はヒューイの目を見つめている。考えてみたらカッコ悪い姿だろうなぁ。

横で僕の左手にしがみついていた清子が

「あなたは私達を食べるの?」

と、自分の身体を半分僕のうしろにかくして言った。

僕はやっぱり女の子は強いなぁと、いつもの清子の強さを思い浮かべていた。

その声を聞いてヒューイが顔を僕達の方へ廻してきて鼻先まで寄せてきた。すっごく臭い筈なのに、もう匂いなんて感じない。ふるえは最大限になってきた。既にお尻は机の上に乗っかっている。でも清子が握っている僕の左腕に彼女の爪が食い込んでいるので、少しは気持ちを抑える事が出来ている。

「あなたは草なの?」

と、ヒューイが聞いた。

「ちが~う!」

僕達の真後ろで隠れていた清高が叫んだ。

「じゃぁいらない」

と、ヒューイが言って首を元に戻したので僕達の緊張は少しだけゆるんだ。

「ヒューイは植物しか食べないハービバーと言う種類の恐竜なんだよ。」

と、横からプロット先生が言ったので、僕達は全員がホーっと大きなため息をついた。


そうと判っただけで僕の足の震えもとまった。でもまだ清子の爪は腕に食い込んでいる。

「あのぉ、、痛いんだけど。」

今まで何とも無かった様な顔をして、僕は清子に耳うちした。

「あっ!」

清子が小さな叫び声をあげ、顔を赤くしてパッと離してくれたので、なんか全てから解放された様な気持ちになった。

やっぱり強がっていても女の子は女の子だなぁ。でも清子は僕の事が好きなんじゃぁないかな。ふふふ、、、実は僕も好きなんだけれどなぁ。あっ、そんな事よりヒューイのことだった。

先生が説明してくれてたんだ。

「ハービバーって言う種類の恐竜はね、50cmぐらいの大きさから40mぐらいのものまで色々な種類があるんだよ。そしてね、二本足で歩くのもいるし四本足で歩くのもいる。でも大体大きな恐竜はこの種類に入るんだよ。だってね木は大きく高く育って行くだろう、そうしたら身体が小さければ食べ物に届かないから死んでしまわなくちゃならないだろう。」

 

もう僕達はゆとりでヒューイを見つめている。

「君の頭はちっちゃいんだね。」

と、清高も落ち着いてヒューイに言った。

ヒューイは長い首を廻して自分のしっぽから足まで見回して言った。

「そんなこと無いよ。僕には頭なんてないんだから。」

「何言ってるの!あなたは持ってるじゃないの。」

と、弘子が言いながら近づいて平手で頭をパンパンと叩いて

「ここに!」

と、言葉を続けた。

ヒューイは両目を寄せて

「僕には見えないよ。」

と言った。

「先生!」

僕が手を挙げて言った。

「少しバカなんじゃないですか?」

そうしたら弘子が目をむいて

「私の事をチキンヘッドって言うの!」

と、鼻息荒く言った。

どうして僕が発言するとこうなるのだろう。女の子は恐ろしい。

「ハハハ、、、ヒューイの脳の大きさが豆粒ぐらいだと言っているんだよ。」

と、先生が助け船を出してくれた。

「そうして君が大人になった頃の脳は体重の40分の一ぐらいの重さだけれど、ヒューイの場合は5万分の一ぐらいだからね。」

と、続けた。

「でも、、、、、そんな小さな脳で、、、どうやって敵と戦う事が考えられるの?」

と、ひとみが控えめに聞いた。

「ヒューイはね、考える力なんて必要無いんだよ。」

プロット先生が言ったけれど、ひとみは納得しないで

「ヒューイ!あなたは何を考えているの?」

と、聞いた。けれどヒューイは何も返事をしないので、

「ヘイ!ヒューイ!これはあなたの名前なの?」

と重ねて聞いた。

「そうだよ。」

「じゃぁヒューイ、あなたは毎日何を考えているの?」

「考える?」

と、ヒューイは言いながら、しばらくして

「僕は何も考えないよ、、、、、、考えるのは食べる事だけ、、、それと、、敵を探す事かな。」

と、鼻であしらった。

プロット先生が、その言葉を引き継いで僕達に言った。

「ヒューイ達の敵はね、カーニボーと言って肉食の恐竜たちなんだよ。ヒューイ達の様なハービバーが彼等の食べ物なんだ。現代で言ったら野生のライオンがシマウマなんかを襲って食べる様なものだよ。」

それを聞いて清高が言った。

「カーニボー達はヒューイより賢いんだね。」

「そうだねぇ、カーニボー達はハンティングの計画も立てなくてはならないし、少しは脳のパワーが必要だね。例えばトロードンなんかは3mぐらいの長さの身体だけれど、その体重にしては大きな脳を持っているしね。」

先生が説明してくれた。でも清高がどうしてって不思議そうな顔をしているのでプロット先生は僕達を見回して

「もし、もっと違った種類の恐竜を勉強したいのなら、それらを書き留めておかなくっちゃね。みんな手伝ってくれるかい?」

と言ったので

「恐竜新聞を作ろう!」

僕が叫んでしまった。これが僕の悪い所なんだよなぁ。頭で考えるより先に口に出てしまうんだ。でも、、

「やろう、やろう。」

「新聞の名前は、、、、」

「本にしよう。」

みんながワイワイガヤガヤで、今回はうまくまとまった。よしよし。

「オーケー、オーケー。そしたら最初の新聞は誰が編集長をやるんだい。」

「ぼく!」

僕は先生の言葉が終わる前に叫んだ。やれやれ僕の口め!

 

「先生!ヒューイが窓の外の植木を狙ってるぅ!」

清子が叫んだ。

ヒューイは教室の窓から首を出して植木の匂いを嗅いでいる。

「オーケー、タカシ、僕のバックパックを投げてくれ。」

と、先生が言ったので、丁度僕のうしろにあったバックを取り上げた。なんだ軽い。空っぽじゃぁ無いのか?でも先生が言うのならと、四人ぐらい横の先生へ放り投げた、つもりだったがコントロールが悪かったのか弘子の頭にぶっつけてしまった。あの時の弘子の目は一生忘れられないだろう。女の子が怒ったらコワイ。

でも、カラッポのバックパックなんか当たっても痛くも無い筈なのになぁ。

頭を押さえながら弘子が重そうに先生に、そのバックを渡した。

受け取った先生はすぐにチャックを開けて、一個のキャベツを取り出して一枚ずつはがして丸めてヒューイにやりだした。

変だなぁ、あのバックパック確かにカラッポだったのに、、、本当に不思議な先生だ。


ヒューイは先生から貰ったキャベツを美味しそうに噛み砕き、ゴクンと音を立てて飲み込んでいる。たちまち全部のキャベツを食べてしまった。そして大きな大きなあくびをした。それはすっごく臭くって僕達は一瞬息をとめた程だった。

そしてヒューイは猫が自分のしっぽを追いかける様に大きな体を回し出した。

「みんなもっと広がって!」

先生が叫んだ。

言われなくっても僕達は一足先にヒューイから離れていた。

見る間にヒューイは前足をおって、続けて後ろ足をおって床に座り込んだ。また大きなあくびをして目をつぶった。身体が右に左にとゆれている。そしてゆっくりと左の方へ横たわって行った。彼は身体を横たえる前に眠っていたんだ。

「さあ、今日の勉強した所を君達の新聞に書いて」

と、先生が言ったところで授業終了のサイレンが鳴った。

「じゃぁタカシ。君が編集長なんだからちゃんとまとめておく事。わかったね。」

「ハ~イ」

「じゃぁタカシ、ヒューイを僕のバックパックに入れてくれるかい。」

先生のその言葉で僕達はヒューイを見ると、いつの間にか元の骨だけになっていた。

 


さぁ1話ヒューイ登場はおしまいだよ。

こんな勉強なら一緒にしたいよねぇ。次のお話も楽しみにしてね。